斎藤道三・義龍・龍興
昨日のブログにも書きましたが、『斎藤道三と義龍・龍興 戦国美濃の下克上』中世武士叢書29 戒光祥出版 2015年9月10日初版初刷を読み、ざっと読み終わりました。
別伝の乱についてはわかったようなわからないような。
どうして義龍は妙心寺派に属する快川紹喜ではなく、あらたに京の妙心寺本山に依頼して別伝を派遣してもらったのか。→本書p147で「そこで義龍はこのことを長良崇福寺の快川紹喜に相談すればよかったのに、どうやら京都妙心寺の長老亀年禅愉(祖かん国師)に相談したらしい。」と斬って捨てている。いや、そこは論点でしょ、やっぱり。
別伝の行おうとしたことはいったいなんであったのか、義龍はどうして別伝に深く帰依するにいたり、朝廷や義輝まで動かして別伝を正当としたかったのか。
疑問が解決しませんでした。
とにかくその「別伝座元悪行記」なるものをみないとなんとも・・・
それから著者は非常に快川紹喜に対して思い入れが深く傾倒しているようだが、それが論考にも如実に現れている。むしろ、前述のとおり義龍が快川紹喜ではなくわざわざ妙心寺本山に依頼したことを重くみたほうが義龍の内面に迫れるのではなかろうか。
個人的には、申し訳ないが快川紹喜という僧侶は非常にカリスマがあったとは思うのだが、直情径行型でかつ才知をひけらかすような感じがしてイマイチ。。。三条夫人の葬儀のときの偈や雪渓宗梅大禅定尼の一周忌での偈、絢爛豪華な、白髪三千丈的な目もくらむような言葉が連ねられている。苦手だ~。俺頭いいんだぞ、みたいな。。。ただの印象です。
濃姫について、鍋との混同だという山田寂雀氏の説を紹介し、「この場合、養華院は架空の法名ということになる」とする。本書p231
また著者自身は、道三の娘の一人が土岐頼充夫人であるといい、土岐頼充死後(道三が殺した)1年で今度は織田信長に嫁がされた、すなわち帰蝶(濃姫)であるという。土岐頼充夫人であった頃の帰蝶は、頼充とともに住んでいた大桑城で快川紹喜と会っていたであろうという。
すなわち雪渓宗梅大禅定尼と称する女性の一周忌が天正二年一一月に甲斐で快川紹喜によって行われており、偈の文言に「岐陽太守鍾愛の」とあることからこの女性を濃姫と断定し、濃姫の没年を天正元年十二月とする。本書p232~p235
帰蝶は13歳で最初に嫁ぎ、その後出戻ってきてすぐに15歳で信長に嫁いだということになります。
著者の大胆な推論としか言いようがない。
最後に、史料解釈で明白な誤りがあったので、指摘しておきます。
「新見文書」という文書からの引用らしく書き下し文が書かれていて、その解釈が載っています。差出人は織田信長。充所は秋山善右衛門尉。日付は十一月二十三日付。本書p201
先度は陣中に御使、本望に候、仍ち思し召しに寄らざる申し事に候といえど、大鷹所望に候、誰々所持については御調法候て、御意に懸けらるべく候、猶、埴原新右衛門尉申すべく候、恐々謹言、
(後略)
【現代語訳】
この前は、陣中に御使者をいただき、御礼申し上げる。思いのほかのこと、大鷹を送ってほしいということで、誰かが所持しておれば入手して御送りするつもりである。なお、埴原新右衛門尉から詳しく申し上げるのでよろしく。恐々謹言。
著者は武田信玄の意向を受けて秋山善右衛門(後の虎繁)から信長へ便りがあり、その内容を「大鷹が欲しいので入手できれば送って欲しい」というものだろうと推察し、この文書を信長から信玄への返事として解釈されている。
が。そうではない。信長が信玄におねだりしているのである。敬語を検証していく。
- 御使→秋山もしくは信玄からの使いなので御をつけている。
- 思し召し→思うの尊敬語。信長が思うのではなく、相手を敬う。すなわち、秋山ないし信玄への信長からの敬意。
- 申す→言ふの謙譲語。信長の動作。
- 所望→敬意なし。信長の動作。
- 誰々所持については→敬意なし。判断保留。
- 御調法→お調べになって→相手の動作なので御がついている。
- 御意に→これも相手の意思、気持ちだから御をつけている。
- 懸けらるべく→懸け(カ行下二・未然形)・らる(助動詞・尊敬・終止形)・べく(助動詞・適当・連用形)
訳しなおすと、こうなります。
先日は陣中へのお使いをいただき、実にありがたいことです。そこで(そちら様としては)思いもよらない(不躾な)申し出ではありますが、大鷹を頂戴したいのです。誰々が持っているかはそちらでお調べいただいて、きっとお心に懸けていただきたく存じます。なお、埴原新右衛門尉が詳しく申し上げます。恐々謹言。
けっこう、信長ってオネダリするよね。うん。上杉にも鷹をくれ~って言っていたような気がする。調略の一種で、こう擦り寄っていっているつもりなんでしょうかね。
かなり大胆な本。概説書として読むには向かない。史料が一級史料から江戸時代に成立した眉唾ものまで同列に扱われていて、なんとも。